森澤雄司先生から緊急特別セミナーの総評を頂きました。

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  2010年10月30日東京会場、11月20日神戸会場にて「緊急特別セミナー~多剤耐性菌にどう対応するか~」を開催しました。
講師に、自治医科大学附属病院感染制御部長 森澤雄司(もりさわ ゆうじ)先生をお招きし、「高度耐性菌と病院感染対策」「インフルエンザの動向と今後の課題」をテーマに、全2部の構成でした。
  セミナー終了後、森澤雄司先生より総評をいただきました。


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  病院バイオクレリネンス研究会・緊急特別セミナーを、10月30日(土)に東京・日本青年館ホテルで、11月20日(土)に神戸国際会議場で開催したところ、前者は参加するのも大変な台風接近の荒天の中、後者は逆に遊びに行きたくなる秋の行楽日和の好天の下、いずれも多くの参加者を得て大変盛況であった。御来聴いただいた皆さんに心から御礼を申し上げたい。
  セミナーでは「高度耐性菌と病院感染対策」、「インフルエンザの動向と今後の課題」という 2 つのテーマを取り上げてお話しさせていただいたが、どちらの講演も具体的な解決策を提示した訳ではなく、現場の状況に応じた現実的な対応が必要であることを強調した。科学的な根拠、エビデンスに基いて作成されたガイドラインであっても、そこには現場の事情があり理想と現実のギャップが問題になるが、様々な臨床的な要素を基いて優先順位を決定する感染管理リスクアセスメントの考え方や実践可能な手順書としてのマニュアルを継続的な質改善に繋げる方法論を中心に取り上げた。
  高度耐性菌の感染対策は米合衆国・疾病管理予防センター(CDC)を中心に作成される HICPAC(Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee)ガイドラインで 2006年に多剤耐性菌対策、2007年に隔離予防策の改定版が公表されている。その中でも一律な対策とはされておらず、急性期ケア病棟では接触感染予防策が推奨されているが、長期療養施設で日常生活レベルが自立している場合は原則的に標準予防策でよく、大量の分泌物、褥創、浸出を伴う創部、便失禁、ストーマを扱う場面に限り手袋とガウンの着用を厳守するように記載されている。わが国と米国における病棟運営の差異を考慮すると、感染管理リスクアセスメントに基いた判断こそが重要である。多剤耐性 Acinetobacter baumannii のように環境管理が必要な病原体もあり、さらに隔離解除基準には科学的根拠を提示しづらいこともあって、現場の状況を把握した専門性を伴ったマネジメントが求められる。
  また、インフルエンザは社会的な影響も大きく、わが国では毎冬に一定の流行を呈しているにも関わらず、昨年に A/H1N1 2009 が大流行するまでは感染対策が十分に議論されていたとは言いづらい。季節性インフルエンザでも決して軽視することなく、この機会にインフルエンザ対策のレベルが向上することを望んでいる。
  今回のセミナーが、限られた医療資源の中で感染対策に御苦労されている現場の皆様に少しでも有益であったならば幸甚至極である。

森澤雄司 自治医科大学附属病院・感染制御部長、感染症科(兼任)科長

緊急特別セミナーの様子

緊急特別セミナー東京会場の様子(2010年10月30日)