谷壽一・伊藤壽康(2005):昆虫動態のバリデーションシリーズ5
Vol.21,No.9.ファームテックジャパンを修正・加筆
バリデーションとは、科学的な検証・有効性、またそれを確認すること、また動態とはその種の個体群動態の変動を意味する。つまり「ある種の個体群動態について科学的に確認すること」である。昆虫は生き物であり、常に一定の生息数であるとは限らず、一時だけではない継続した管理が必要となる。そのため、個体群の動態を監視し、基準値(生息が許容できる数)を設定し、それに適合しているかどうか、適していない場合は是正措置をとり個体群の変動を検証することが昆虫管理には必須となる。
工場における昆虫管理で最も大切なことは、昆虫が発生したときに個体群生態学に基づくアプローチによる防除計画が可能かどうかということである。昆虫相調査や定期的なモニタリングの結果は、あくまでその時点でそこに昆虫類が生息していたという事実を示すだけであり、本来知りたい情報は混入などのリスクがあるのかということである。つまり昆虫の捕獲が確認されたときはその後の後追い調査が重要となる。その個体がどこから、どのような状況で、どのような要因によって捕獲されたのかということを追究してこそ、生態学的なアプローチによる防除計画の作成が可能となり、また製品への混入や汚染のリスクを回避することができる。
工場のように、高度な管理が要求される施設では常に清浄区域で捕獲される昆虫類の発生消長を監視する必要がある。特に、無菌操作区域では通常は0であることを確認し、もし捕獲された場合には直ちに是正措置をとり、ゼロベースに戻すアクションプランを有していることが必要である。そしてこれらの是正措置は、食物連鎖やその種の生活史を十分把握したうえで実行しなければ効果を得ることはできない。医薬品の製造環境では昆虫相は単純で塵埃中の有機物や真菌を食べているものとその捕食者で構成される。よって防除としては食物連鎖の鎖を断ち切り、環境抵抗を最大にすることが最も効果的である。
昆虫類がクリーンルームでも生息する以上、必ずリスクがあるのも事実である。「捕獲指数を○○以下に抑えたら異物混入はゼロになるのか?」、この答えは「NO」である。なぜなら1匹でも昆虫類が存在していれば異物混入の恐れは常にあるからである。したがって捕獲指数あるいは最大値の管理基準値は「その工場の製造区域としての目標値を示すレベル」を設定し、毎年、基準値を見直し、より高いレベルにしていくことで、PDCAを運用してスパイラルアップを目指すことである。管理基準逸脱時は後追い調査による昆虫類や真菌汚染のリスク評価が重要となる。
これらを実施して、常に昆虫類を管理していることが説明できる状態にしておけば、拡大被害の確率はきわめて低いことがいえる。すなわち、万が一混入した場合に備えて、それがスポット的である証拠(拡大被害がないこと)が提示できるように昆虫管理をしていることが重要となる。管理の流れは次のとおりであるが、これを実行できる組織と従業員への教育が不可欠である。
①現状の分析
②管理ポイントの抽出
③モニタリングポイントの設定
④管理基準値の設定 管理基準を超えたら後追い調査でリスク評価
⑤是正措置 効果確認 予防措置
⑥記録保管
⑦検証、監査
IPMでは収益を最大にすることが目的であるが、昆虫動態バリデーション®の目的は万が一昆虫類混入が起こっても拡大被害がないことの説明と資料を提示できる管理体制を作ることである。また、外部監査時の説明である。例えば健康危害のないクラスⅢのクレーム(例えば食品、非無菌製剤への昆虫の混入)に対しては、拡大被害のないこと、昆虫類を管理するシステムがあることを説明し、回収を回避する仕組みとなる。ただし、クラスⅠ・Ⅱの場合は回収となる可能性が高い。注意すべき点は、昆虫の管理のために使用した殺虫剤により製品が汚染した場合は回収の可能性が高いということを念頭に置く必要がある。
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